立川志ぃさーの世果報

貘は超自然体の反戦詩人ではなく、平和詩人だったわけよ。その信念は戦時中でも変わることはなくて、この詩はそのことを見事に現しているさぁ。彼は一編の詩を産み出すのに、原稿用紙を何百枚も使った詩人だったわけよ。

題 貘

悪夢はバクに食わせろと
むかしも云われているが
夢を食って生きている動物として バクの名は世界に有名なのだ
ぼくは動物博覧会で はじめてバクを見たのだが
ノの字みたいにちっちゃなしっぽがあって
鼻はまるで象の鼻を短くしたみたいだ
ほんのちょっぴりタテガミがあるので
馬にもすこしは似ているけれど
豚と河馬とのあいのこみたいな図体だ
丸っこい眼をして口をもぐもぐするので
さては夢でも食っていたのだろうかと
餌箱をのぞけばなんとそれが
夢ではなくてほんものの
果物やにんじんなんか食っているのだ
ところがその夜ぼくは夢を見た
飢えた大きなバクがのっそりとあらわれて
この世に悪夢があったとばかりに 原子爆弾をぺろっと食ってしまい 水素爆弾をぺろっと食ったかとおもうと
ぱっと地球が明るくなったのだ